キッコーマンニュートリケア・ジャパンXAfternoonge project

私たちの更年期を楽しい10年に 私らしく輝こう

薬膳・中医学に詳しい料理家、井澤由美子先生に聞きました。
「食養生を知っておけば、更年期だって怖くない!」

2023年 7月 18日

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23歳でご自身のお店をスタート、30代はMartha Stewart『Martha』日本版編集部の料理班に属し、テストキッチンや広告制作に参加。40代で中医学・薬膳を学び、レモン塩や乳酸キャベツなど発酵や保存食ブームの火付け役として発信を続ける料理家の井澤由美子先生。現在57歳ですが、じつは更年期のトラブルを「あまり感じなかった」そうです。

それもそのはず、井澤先生のご専門でもある食養生(=薬膳)を知れば、不調が起きる前に対処が可能。大きく体調を崩す前に「その日単位」で心身を整える手助けができるのです。

「自分自身の体でずっと人体実験をしてきました」と言う井澤先生に、中医学の視点から更年期をラクに過ごす知恵を伺いました。

INDEXINDEX

今日の体調を今日の自分に聞きながら。
いつも食養生で自分を整えてきました

食べながら体を整える。
「五行五性」とはどんな内容なのか?

知っておけば「対策」ができる。
不安にならず、前向きに行動できる

大豆をよく食べます。
更年期世代にとって変幻自在の頼れる相棒

更年期世代に特に大切にしたい
その他の食べ物は?3つ挙げるとすると

更年期のちょっとした不調、
井澤先生は実際どう対処しましたか?

結論!くよくよ迷わない。
からりと笑い、おいしくバランスよくなんでも食べる

今日の体調を
今日の自分に聞きながら。
いつも食養生で
自分を整えてきました

農家さんから届いた新鮮なお野菜を、自宅お庭の縁側でぱちり。

私はいま57歳、更年期はすでに過ぎましたが、幸いそれほど厳しい症状は出ませんでした。とはいえ、まったくゼロでもなく、あるときから仕事のエンジンが始動するまでとても時間がかかるようになりました。いまふり返ればそれが症状だったのだと思います。

若いうちはそれこそ寝食も忘れるくらい仕事に熱中していましたが、40代後半から無理がきかなくなり、50歳ごろ「もう寝ないとダメだな」と思うようになりました。このころですね、エンジン問題を感じたのは。そして、55歳で本格的に無理はできないなと実感しました。

いま私は、祖父母も暮らした地に住んでいます。庭木が茂り、梅や小さなりんご、畑にはニラやトマトなど旬の恵みの作物も。祖母は大の料理好きでしたので、旬のものをたっぷり食べて育ちました。小さいころから「なぜ夏場の麦茶やすいかでお手洗いが近くなるのだろう?」と考える子どもでしたので、暮らしと食養生は一体のものでした。

のちに出会うマーサ・スチュアートも、庭のりんごを摘んで、お庭のハーブも加えながら、ブラウンシュガーを使ってアップルパイを作ります。四季と自然をふんだんに取り込んだナチュラルな暮らし。だから、私の中ではマーサと薬膳は地続きなのです。

古代中国から伝わる中医学は、陰陽五行論から生まれました。心と体、自然や季節の変化など、自分を取り巻くすべてが自分とつながるととらえ、偏りなくバランスのとれた「中庸」を目指します。その中の食の体系が薬膳。私は食養生という言葉を好んで使っていますが同義です。

食養生は養生の中の一つ。心身の養生には、3つの柱が大切です。睡眠、運動、食。「気がいい」「気をつける」「気にする」、いろいろな言葉に「気」が出てきますが、こうした言葉は中医学のベースにある陰陽五行の考えから出たもので、3つの柱のどれが欠けても気はうまく回りません。

「ひ弱」と言いますよね。「ひ」は「卑」または「脾」ですが、この「脾」は実際の脾臓ではなく、消化機能を指します。「脾弱な子」は消化器が弱いので、食も細く、栄養を吸収しにくいのです。

「肝腎(心)要(かんじんかなめ)」も、五臓は人にとってとても大事だが、特に肝と腎と心は大切で、体や心の要になるという意味から。肝は春、腎は冬、心は夏。これらの時期に体調を崩しやすい人はその時期の養生に沿って食べていくことで、沈黙の臓器とも呼ばれる大切な肝と腎を労わる事ができるのです。

食べながら体を整える。
「五行五性」とは
どんな内容なのか?

薬食同源、食べるものは薬と同じ。日々食す野菜やスパイスは体に合えば、薬と同じです。ですから、ほんのちょっとの知識を得るだけで、日常の食べ物から助けをもらうことができます。

これらの知恵は私たちの生活に巧みに取り入れられています。たとえば良質なたんぱく源であり、女性ホルモン様作用など様々な機能性もあるオールマイティ食材・大豆は「平性」ですが、豆腐に加工すると「涼性」に変化します。

夏場の冷ややっこでのせるねぎやしょうがは「温性」。涼と温を合わせることでプラスマイナスゼロ、中庸となり、体を冷やしすぎないよう調節できるのです。
ポイントは「旬」。いつでも自然の恵みは先手を打ってこの世に出てきてくれます。その中から自分の証に合ったものを選び、組み込んでいけばいいのです。

知っておけば「対策」ができる。
不安にならず、
前向きに行動できる

香り高い梅は気を巡らせてくれるから、梅雨時の梅仕事はその香りを楽しみながら。青梅が残ったら、ぬか床に入れると強い静菌作用も。

「気が合う」「気落ちする」。この「気」とは、見えないエネルギーです。食養生を知ると「気」を補い、養うことに敏感になります。たとえば多忙なとき「あと1日この状態を続けると具合が悪くなる、ペースダウンしよう」と考えられるようになりますし、一緒に暮らす家族の「気」もわかるようになります。

たとえば、春先は「肝」が弱まり、悲しみ、怒りが強まります。これを気持ちが不安定になっても「そういう時期だからだな」と気づき、「何を食べようかな」と対策に気持ちを切り替えることができます。「なぜそうなるのかの必然性」を知っていることで心に余裕が生まれるのです。

体の変化も必然をもって起きていきます。アンチエイジングに大切な「腎」には、親からもらった「先天の腎」と、今日食べたものが反映される「後天の腎」があり、後天の腎は自身で整えることができます。「腎」が衰えれば耳が衰え、白髪が増え、足腰も弱まり、そして頻尿になります。老化現象もこのように、必然をもって起きていくのです。

大豆をよく食べます。
更年期世代にとって
変幻自在の頼れる相棒

枝豆は若い大豆だとご存じですか? 毎年のお楽しみおつまみ、枝豆のお浸しです。濃いめの昆布だしに、山椒、粗塩、酢、好みで醬油少々を加え、ゆでた枝豆を浸して、一晩冷蔵庫へ。
トウジャンは黒酢に温めた豆乳を注ぐだけでできる簡単な一品。ちょっとしたおやつがわりにも。

大豆イソフラボンが女性ホルモン様に働いてくれるため、大豆は更年期障害によいと言われます。大豆は「平」で、毎日食べても体を冷やしも温めもしません。脾を養い、おなかを整えて消化機能を高め、良質なたんぱく質が疲労を回復します。豆腐になると「冷」です。トリプトファンを豊富に含むので眠りの質向上にもいいでしょう。

更年期特有の言い知れない不安感がある人は、豆乳にトリプトファンを含むバナナや卵を合わせてミルクセーキなどにし、相乗効果を狙っても。大豆を炒って皮をむき、挽いたきなこも繊維が多く料理展開もしやすいですし、大豆が納豆になるとビタミン類も飛躍的に伸びて美容効果も上がります。

私は豆乳で台湾料理の豆漿(トウジャン)をよく作ります。スーパーフードのクコの実と昆布を黒酢に漬けた薬膳酢を常備していますが、カップにこの薬膳酢とすり黒ごまを入れて、温めた豆乳を注ぐとすぐに固まります。上にかつお節、ラー油をかけて、いつでも食べられる簡単なおやつにしても。更年期世代の人によい食べ物は黒と赤のものなので、黒ごま・黒酢・クコは最適の組み合わせです。昆布は腎によく、クコと酢の組み合わせは肝=目を養生します。

雨季は脾が弱りますから、黄色いもの、甘いものを食べたい。たとえばとうもろこし、大豆、かぼちゃなど、甘くてほくほくしたものです。こうしたものもすべて更年期によいですね。トマトや大豆はうまみも強いので、私は夏場に2大うまみ巨頭として活用しています。

大豆は季節ごとの合わせ方もいろいろ工夫できます。春は酸味を、夏は苦みをプラス。秋ならねぎなどの辛み、冬は海藻など黒くてしょっぱい鹹味、黒ごま・黒豆を。また、大豆を原料とする調味料の醬油や味噌は発酵食で温め作用があり、ここでも工夫ができます。

更年期世代に特に大切にしたい
その他の食べ物は?
3つ挙げるとすると

むきトマトの冷たいだし漬け。トマトのうまみがあるので、簡単な作り方で美味。鍋に水と昆布とかつお節を入れたら中火で20分ほど煮てだしをとり、粗塩、醬油で味つけして粗熱をとる。湯むきしたミニトマトを漬けたら冷たく冷やして。

その日の体調の見極めは朝に行います。人間の体は朝には冷えているので、私はお風呂からスタート。続いて温かい白湯を飲んで内臓からも体を温め、交感神経をオンにしてから、今日の自分の体調を探ります。口の中が苦いならば、胆が弱っているからちょっとお疲れ。そんなことも、10年以上繰り返しているとわかるようになります。

1・山芋

私の体質に最高に合うのは、山の薬と書いて山薬(さんやく)と読む「山芋」。疲れを感じたらとろろをすっていろいろなものと合わせ、腎を補います。

2・トマト

暑い時期は「微寒」の「トマト」もよく食べます。このトマトひとつとっても、体調の見極めに合わせてその都度食べ方を変えます。体が冷えているなら加熱調理で微寒を緩和します。逆に、汗をかく日は写真の出汁漬けやピクルスにして冷たくさっぱりとさせ、清熱しながら食します。だしや酢は疲労も回復させますね。「温」のしょうがと食べるのも好き。

このように、食養生とは「全員トマトを食べましょう」ではなく、「あなたの証に合ったものをあなたの状態に合わせて食べる」のです。

3・緑茶

ホットフラッシュには体を冷やしてくれる「緑茶」が最適です。頭ののぼせも鎮静させる効果があります。熱いお茶を飲む日もあれば、今日は体が冷えているから発酵茶に、今日は気が落ち込んでいるから香り高いハーブブレンドにと、これも毎日内容を変えていきます。そこからまたより探求を深めて、それぞれの効果効能を知ってチョイスしたり組み合わせる事ができるようになると、深く楽しい養生になります。

更年期のちょっとした不調、
井澤先生は
実際どう対処しましたか?

梅雨時のある日の野菜たっぷりごはん。梅干し玄米ごはん、キャベツのじゃこ蒸し、小魚チョリム、ぬか漬けなど。

私が取り入れていた更年期の不調対策をお話ししましょう。といっても、季節ごとに合わせるべきものが違いますので、今回は梅雨が終わるころ、7月で。

「イライラ」

忙しすぎるとイライラしますよね。私にとって、すっと気が鎮静する特効薬はアールグレイ、ベルガモットの香り。撮影中にはいつも熱いアールグレイをいれてもらいます。香り高いものは気をよく巡らせてくれますし、私は熱いものを飲むことで気が落ち着きます。イライラが強まりがちな人でも、声を荒らげず穏やかに過ごせます。

イライラすると肝が疲れますから、このほか柑橘系もいいでしょう。グレープフルーツなんかもよく、酸味と甘みのある酢の物もいい。このように、自分にとっての解決策を1つでも見つけておくと、更年期障害を軽減できます。

「疲れ」

私の証に合うのは先ほども触れた「山芋」。撮影続きで疲れると毎日食べています。細かくして温めて調理するといいので、おみそ汁、卵焼きなどに入れたり、とろろに温かい温玉を落としたり、皮ごと2センチ厚さに切って魚焼きグリルで焼いて梅みそをつけて食べたり。夜、胃腸を休ませたいときには、おみそ汁にすりおろしのとろろを加えたものでリラックスしています。

「眠りの質が悪い」

私はやや血虚なので、ふだんから血を巡らせるように心掛けています。朝は日光を浴びてからストレッチ。トリプトファンを含む納豆や発酵食、大豆製品、ぬか漬けは常食しています。爪の割れやすさはまさに血虚のあらわれ、鉄分が少ないと不安感にもつながりますから、まずは血をしっかりつくれるようレバーを食べること。私は生のレバーに塩をして一晩冷蔵庫に置き、落とし蓋をしてゆでたものをストック、和洋中華さまざまに活用します。眠りが浅くなる原因は血の不足と巡りの悪さも要因です、こうして血をしっかりつくったうえで、軽い運動やストレッチなどで全身に血を巡らせます。

「ほてり」

緑茶が一番。私はほてるときはいつでも緑茶で清熱していました。ただ、夕方4時以降にカフェインをとると眠れなくなるため、水出しや氷出しでカフェイン控えめの冷やし緑茶を作っていました。このほか、ゴーヤー、トマト、なす、ピーマンなど、体を冷ます食べ物も取り込みながら献立を考えました。たとえばゴーヤーなら、薄くスライスしておかかあえを常備。なお、冬場のホットフラッシュは反対に「避ける」ことで対応します。黒糖や紅茶、にんにくやしょうがは体を熱くするので、そうした体を温めるものは遠ざけて、レタスや豆腐など平性や涼性のものを食べます。

井澤家のナチュラルトマトソース、唐辛子トマト醬をそうめんに。

「疲れやすい」

「山芋」と「納豆」です。私の疲労回復スタメンといえば、山芋、納豆、ぬか漬け、おみそ汁に旬のお野菜を入れたもの。ぬか漬けやみそを手作りしていますが、この発酵食でてきめんに疲労が回復します。また、納豆はごはんのおかずではなく、毎日のサラダ感覚。このほか、疲労回復のビタミンB1、ビタミンCも意識し、乳酸キャベツなどの発酵食も常時取り入れています。肝が疲れると目が疲れますから、そんなときは常備しているクコのジュースやモリンガを活用。ブルーベリーも良いでしょう。

鶏ひき肉とおろししょうがを合わせてツルンと冷やしワンタン

「肩がこる」

レシピ考案中は下を向いて作業していますから、私は常に猫背。肩こりもひどいため、ピラティスをしています。中医学では経絡も勉強するのでツボもわかるようになるのですが、鎖骨付近のツボを強く押さえながら腕を大きくぐるぐると回すストレッチがとてもよく効きます。ピラティスも効果大ですが、時間が取れない時はひと駅歩くようにしています。また、活血(血の巡りをよくする)ができるニラ、ねぎ、生姜、シナモンなどを取り入れた食養生と、ツボ押しを一緒に取り入れると相乗効果が出ます。

結論!くよくよ迷わない。
からりと笑い、
おいしくバランスよく
なんでも食べる

ここまでたくさんのことをお話ししましたが、全部やろうとして頑張ってしまわないで。なぜなら、何かが起きたとしても、「しょうがない、なるようになる」と気をラクにすることが一番の養生だからです。

私の経験から言うと、気分がふさいでしまう人はほとんどの場合「心配しすぎ」。まだ起きていないことを過剰に心配してしまうのですが、「何かあっても勉強なんだから、どっちに転んでもだいじょうぶ」と強く思えさえすれば問題はほぼ解決します。ここで活躍するのが「書く」こと。何が本当に心配なのか、心配に思うつどメモをとっていくと頭の中が少しずつ整理され、次に何をしようかと具体的な行動を考えることができます。私はメモで自分を振り返ることでとても助けられました。

もう一つ、他人を変えようとしない、自分も変えない。考え方が違う人と対立しそうになっても、「そういう考え方もあるんだな」と受け流して。ここで「気」、すなわち自分のエネルギーを使いすぎないことです。これだけでも余計なエネルギーの浪費がぐんと減ります。

「気のいい人」って、気がうまく巡っている人です。気はエネルギーだからこそ「気合」が入るし、「気弱」になれば何もできなくなります。小さなことで少しずつ自分をケアしていけば、そのケアがつながってひとつの長い線になります。この線があなたを守ります。いつでも「いい気」を回し、ご自分の「気分や気持ち」を大切にしてあげてください。

PROFILE

料理家 養生デザイナー井澤 由美子先生

調理師、国際中医薬膳師・国際中医師。
姉妹で飲食店を経営。海外の人気ライフスタイル誌日本版編集部料理班、広告製作部より独立。旬の食材の効能と素材の味を生かしたシンプルな料理を提案。発酵食レシピの開発はライフワーク、中医学・薬膳にも造詣が深い。レモン塩・乳酸キャベツなど様々なブームの火付け役でもある。NHK「きょうの料理」「あさイチ」「趣味どきっ!」などの料理番組他、主に体に優しい商品開発を手掛ける。企業CM、雑誌、カタログ、イベント、書籍、店舗プロデュース、講演、執筆等、著書多数

取材・文/井一美穂(オトナサローネ編集部)

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